どう見てもそれは世界が壊れていくのを認めたくないかたくなさである。
ひどく冷たい雨が降っている。
知らない人達が、知人宅にある小屋のような建物に、不満でいっぱいの険しい顔をしながら勝手に集まっていた。
世界はだんだんに壊れているが、彼女の家は最後あたりまで残るらしい。
知人の家族はそいつらの世話に困っているようだった。
それはそうだろう。
そもそも世話をする義理もない。
どうせ滅ぶのだから意味もない。
出迎えてくれた知人は僕を屋根の下に案内してバケツのような容器を指し、「一羽だけ産まれた」と言った。
見ると、そこには白色レグホンらしき若い鶏がおさまって、黄色い目でこちらを見ている。
「そう育てなかったから、残念だけどあまりさわれないんだ。すごくつついてくる。」
知人はそう言いながらもその生き物を抱き上げる。
鶏はじっとしているが、これ以上近づけば攻撃してくるだろう、と察知させる目であたりを見回している。
僕はなんとなく、この鶏を食べれば世界を壊す何かに勝てるようになるな、と悟るが、さすがにいきなりは言い出しかねて当たり障りのない答えを返す。
冷たい雨は音もなく降り続いている。
この雫があたたかくなれば、その雨はもはや地面にしみこまず、水位は数時間で人の背丈以上になるだろう。
そして世界が完全に終わる。
その前には言わなければならないのだが。